果てしなきスカーレット──懲役2時間、罰金2千円の映画体験

巷で酷評されている作品ほど、逆に気になってしまうものだ。
「せっかくの休みを無駄にしていいのか……?」と何度も自問して、それでも結局、観に行った。
ずっと悩むくらいなら、観てしまったほうが早い。

事前に目に入っていたのは、レビューにあったひと言。
「懲役2時間、罰金2千円。」
言葉の破壊力が強い。

細田守作品は『時をかける少女』しか観ていない。しかも、そこまで刺さらなかったタイプなので、期待値はマイナス。
情報は意図的にシャットアウトし、ポップコーンLとペプシゼロLを抱えて席に座った。
本編より飲食が楽しみ、という時点で察してほしい。

※ここからネタバレあり


意外と悪くない。

まず抱いたのは、その率直な感想だった。

そして……ヒロインの聖くん、男性看護師だった。
マジか。

物語が進むほどにツッコミどころは増えていく。
書き出したらキリがないし、他レビューも同じ場所でつまずいている。
「そうはならんやろ!」を連発しつつ鑑賞。

ポップコーンは塩とバターしょうゆにしたが、片方はキャラメルでも良かった。


看護師としての視点

自分は急性期病棟の看護師であって、救急の現場とは違う。
それでも、どうしても職業的な目線で見てしまう。

とくに違和感があったのは、
「俺は看護師だから人を助ける」 という、聖くんの踏み込みの強さ。

看護師は“人を救う仕事”だと私は思っていない。
私はむしろ、“人を整える仕事” だと捉えている。
その人が自分で立てるように、環境や心身を整える仕事。
看護観の違い、と言えばそれまでだが。

馬を川まで連れていくことはできるが、水を飲むかどうかはその人の課題だ。

だから、彼の“兎にも角にも人を救う”という行動は、少し踏み込み過ぎではないか、と感じた。
もうそれは看護師ではなく、“正義の味方” に近い。
Fate/stay nightの衛宮士郎的な、“救わずにはいられない”タイプ。

また、作中の「死に慣れてしまったら…」という問いも、個人的にはピンと来なかった。
言わんとすることは理解できるが、そこには必要以上の“他者の課題への侵入”を感じてしまう。

ラストの「生きたいと言え!」も、気持ちはわかるけれど……
私はどちらかというと、
「生きろ」
と背中を押されたほうがしっくりきただろう。


物語として

アニメーションと音楽は良い。
ただし、殺陣がすごいとか、主人公が無双するとか、そういうエンタメ作品ではない。
そこに面白さを求める人には向かないと思う。

テーマ自体は良かった。
「こうあるべき」と自分を縛る主人公。
父親の「赦せ」という言葉。
過去と決別し、今を生きろ、というメッセージ。
これはもう完全にアドラーだな、と感じた。

ただ、テーマと設定、イベントの噛み合わせは微妙だった。
わざとズラしているのか、ただ相性が悪いのか、観ている間ずっと首を傾げていた。

例えるなら、
「蕎麦を作ります!」と宣言して、ラーメン用のちぢれ麺をフライパンで炒めて、焼きそばが完成した……みたいな。

「いや、どうしてそうした?」という選択が多い。
聖くんを看護師にした理由も、正直よくわからない。

味は悪くない。
ただ、「あれ、蕎麦じゃなくて焼きそばなんだ?」という戸惑いが残る。

例えが自分でもよくわからなくなっているのは、この作品を観たせいだと思う。
そういうことにしておこう。

要するに、テーマと素材と調理が噛み合っていない、ということだけは伝わった。


私の評価

人には勧めづらい。
でも、私には面白かった作品だった。

矛盾だらけの世界そのものが、何かを問いかけているようにも読める。
レビューをまわるのも楽しみだ。賛否両論の作品ならでは。

ほんと、楽しく、価値のある“二時間の服役”だった。


最後に

作中で、聖くんが看護師になった理由を語るシーンがあった。

「病院で、ボロ雑巾みたいに働く看護師を見た。それを見て、俺もなりたいと思った。」
(記憶頼りなので正確ではない)

この言葉を聞いたとき、
「なんでだよ(笑)」
と突っ込みつつ、なぜか心が少し軽くなった。

“人が選択する理由は、整っていなくていい”