逃げられないと思っていたのは自分だった──夜勤と生き方の話

夜勤を続けるか、辞めるか。その前に見ておきたい現実。


「この働き方を、65歳まで続けられるのか?」

40代になってから、あるいは夜勤を始めてすぐに、
この問いは看護師の胸のどこかに静かに浮かぶものだと感じている。
私もその一人だ。

夜勤がしんどい、体力が落ちた。
そのようなわかりやすい話ではない。
もっと静かで深い、
“生き方と働き方の噛み合わなさ” がふと姿を見せる。

世間ではライフワークバランスやFIREという言葉が飛び交い、
働き方を選び直すことは特別ではなくなりつつある。

しかし病棟看護師の働き方は、
その流れから取り残されている気がする。
夜勤に入らなければ病棟には居られず、
“窓際”という逃げ道も存在しない。

そこでまず考えたい。
夜勤から逃れることは、本当に不可能なのだろうか?


1章:夜勤から逃れることの難しさ──構造と現実

夜勤がつらい。
しかし夜勤を手放すことは、現実的にはとても難しい。

最大の理由は、
病棟看護師の給与体系が夜勤手当に依存している ことだ。

夜勤を外れれば手取りは大きく落ちる。
住宅ローン、家計、貯蓄、家族の暮らし──
すべてが「夜勤手当込みの収入」を基準に積み上がっている。

よく言われる問いがある。

「もともとの給与が高いんだから、手当なくても生活できるでしょ?」

確かに贅沢と言われればそうかもしれない。
しかし現実には、
一度上げた生活水準を下げることは想像以上に難しい。

また、夜勤のない働き方──
外来、手術室、クリニック、企業など──は選択肢として存在するけれど、
どれを選んでも天井は決まっており、
当然ながら夜勤手当は消える。

収入は必ず下がる。

キャリアアップも同じだ。
認定・専門看護師、管理職──
肩書きは増えても収入が増えるとは限らず、
むしろ夜勤を外れることで年収は落ちることも多い。

つまり、

夜勤は「やりたいからやる」のではなく、
「生活と構造が強制してくる」働き方になっている。

夜勤問題は、
個人の努力や根性の問題ではなく、
働き方そのものを支える 制度の問題 なのだ。


2章:未来は変わるのか──AIと働き方の不確定性

未来に希望はあるのか。
AIが夜勤を軽くしてくれる未来は来るのか。

確かにAIは夜勤の“作業負荷”を軽減するだろう。

  • 夜間モニタリングの自動化
  • 記録の効率化
  • 異常の早期検知
  • ナースコールの仕分け
  • 情報の統合

これらは現場を確実に助ける。

しかし夜勤の本質は、作業ではなく
「判断」と「責任」 にある。

AIは

  • 誰を優先するか
  • 家族へどう説明するか
  • 倫理的な決断
  • 患者の揺れへの対応
  • 終末期の寄り添い
  • 急変時の判断

この領域には踏み込めない。

つまりAIは、
夜勤を“楽”にはしても、“無害化する”ことはできない。

そしてAIがどの速度で普及するのかは不確定。
都市部でさえ時間がかかり、地方ならなおさらだ。

その頃、私はすでに 65歳を過ぎているかもしれない。

AIは希望である一方、
“個人のキャリアを救うことが確定した未来”ではない。


3章:では私はどうするのか──内面的な転換点

夜勤に“耐える方法”ばかり考えてきた。
しかし書き進めていくうちに、ひとつのことに気づいた。

「本当に逃げられないのではなく、逃げられないと思い込んでいただけなのでは?」

夜勤手当を含む収入を基準に生活が積み上がった結果、
生活水準を下げる選択肢を
自分自身が最初から除外していた のだ。

確かに夜勤は構造的に逃げにくい。
しかし、逃げられないわけではない。

  • 生活水準を見直す
  • 働き方の前提を組み替える
  • 生き方そのものを再設計する

これらの道を“自分で封じていた”可能性に気づいた。

夜勤を続けるか辞めるかの二択ではなく、
生き方の前提を問い直すこと が必要なのだと思う。

この気づきは静かで小さいが、
私の中で確かに何かを動かし始めた。


4章:──未来を選び直すために

現状の日本の医療では、
病棟看護師が夜勤から自由になる道は多くない。

構造は古く、
給与体系は夜勤に依存し、
地方は選択肢が乏しく、
AIの未来も不確定。

しかし同時に、
自分の中にも“見えていなかった道”があった。

逃げられないのではなく、
逃げられないと思い込んでいた自分。

夜勤問題は、制度だけの問題ではなく、
自分の生き方との向き合い方の問題になっていた。

だから私は、
「夜勤に耐えるか、辞めるか」ではなく、

“自分の自由を守るための準備” を選んでいる。

そのひとつが、
書くことだ。

文章を書くことで、
自分の思考が整い、
見えていなかった選択肢が形を持ち始める。

制度が変わるのを待つのではなく、
自分の未来を選び直すための土台を、自分で整えていく。

そのために、書いている。